宮津 新学長 × 加藤 新学部長 対談

「学生の可能性を最大化する『不易流行』スタイル」

横浜美術大学の特色

宮津「これからの横浜美術大学を、どのような大学にしていくかというところをお話したいと思います。変化が激しい時代ですから、何か一つだけというよりは幅の広い学びが必要だと思っています。その上で重要となる考え方が「不易流行」です。つまり時代の変化を受けて大胆に変える部分と、変わらないものの二つが共存していくことです。具体的には、今年度から私と加藤先生が学長と学部長に就任するということが大きな変化と言えます。ところで加藤先生は本学に勤務されて何年目になりますか?」

加藤「僕は横浜美術大学の前身である横浜美術短期大学の頃からなので13年目を迎えます。」

宮津「では4年制大学として本学が開学してからずっとということですね。」

加藤「そうですね。」

宮津「では、この13年間で変わらない本学の良さはなんだと思いますか?」

加藤「昔から学生と1対1に近い距離感でコミュニケーションを取りながら、親身になって指導できていることはすごく良い点ですね。」

宮津「加藤先生は他大学でも授業をされていますが、他の教育機関と比較して本学が優れている点も教えていただけますか?」

加藤「教育環境や設備が規模の大きな大学に引けを取らないほど充実していますので、少人数で学ぶ本学学生は恵まれていると感じます。」

宮津「私が感じたのは、キャンパス自体狭くはないですけれども、非常に広いというわけではないので、他のコースが何をやっているかが見えるという点ですね。もう一つは2014年度から始まったコンテクスト・アーツという科目群。これは自分が選択したコース以外にも興味がある科目をサブ的に履修できるというものですが、かなり特殊なカリキュラムだと思います。」

加藤「1年次で基礎科目を専攻やコースに関係なく取っていくというのは、他大学でも取り入れているところはあります。しかし、例えば絵画コースの学生がファッションデザイン演習といった自分のコースと違う科目を履修できるという点が本学の大きな特徴ですね。」

宮津「私もそれは画期的な点であると思っています。また、卒業制作についても自分が所属するコースの教員ではない先生に指導を受けて制作する学生もいますよね。例えば工芸あるいは彫刻の立体作品制作時に3Dを得意とする映像や共通科目の先生に見てもらうなど、そういう意味ではかなり自由度が高いシステムであると思います。」

加藤「従来であれば、自分のコース分野以外の要素を取り入れようとするなら独学で勉強するか、アドバイス程度しか受けられなかったところに、他コースの先生から直接、技術指導が受けられるという点は非常にありがたいですよね。」

宮津「現在大学も改革期にありますが、縦割りになりがちな大学が多い中で、本学は柔軟に横断的な学びを実践できていると思います。」

加藤「それは、小規模ならではの教員と学生間のコミュニケーションの取りやすさに起因していますよね。知らない先生が一人もいないという状況だからこそできることです。規模の大きな大学だと難しいので、その点本学は非常にうまく機能していると感じます。」

宮津「私もアニメーションコースの先生と一緒に、「アニメーション論」という授業を一緒に展開しています。プロダクトデザインコースの先生が写真専攻の先生と協力して実施している科目もあります。同じコースの先生や非常勤あるいは外部の先生とオムニバス形式で授業を行うことはあっても、同じ大学の違うコースの先生同士で授業を行うことは稀ですよね。」

加藤「そうですね。領域を横断して指導ができるという点のみならず、どのように学んだり、進めたらいいか迷っている時や、体調を崩して制作が遅れてしまった時も、本学の場合は担当の先生だけでなく他方面の先生が協力したり、リレーションを取り合って、学生の抱える問題を解決するケースが本当に多いので、学生主体で全てが動いているような感じがしますよね。」

変わるものと変わらないもの

宮津「加藤先生のご専門はテキスタイルですが、本学は繊維系の表現に関しても染めと織りがあって、どちらも学べるコースとして設置されています。また、私の担当している修復保存コースは、大学院で学べるところはあっても学部として設置しているところはまだまだ限られています。2018年に設置されたアニメーションコースも大学の学部としてアニメーションを学べるという点では先駆的であり、専門性の高い技術を総合的に修得できるカリキュラムを展開しています。今年度から私が学長、加藤先生が学部長ということで、AIや先端テクノロジーを扱う企業における勤務が長い私と、伝統的な染色手法や実技教育経験の長い加藤先生とで、バランスの取れた運営体制を構築できるものと思っています。以前伺ったお話では、加藤先生は絶えかかっている伝統的な染色技術の復活にも携わっておられるんですよね。」

加藤「はい。現代に残る伝統染色技術は天平時代に大陸から伝わったものが多いのですが、多くの天然染料は輸入品や化学染料の台頭に押され、同時に古代の染色技術も廃れてしまいました。それを復活させるプロジェクトが今進んでいるのですが、復元するためには現代の技術や知識を取り込む必要があります。伝承とは昔のまま復元維持することだと思っている方も多いと思います。しかし、環境や社会の変化は避けられないので、そこをテクノロジーでどのように補うかが重要なのです。今は科学的な技術によって完成をシミュレートすることもできますから無駄や失敗を抑えることができます。そのような技術やテクノロジーをうまく使って伝承という名の進化をさせていくべきだと思います。」

宮津「そうですね。冒頭でも申し上げた通り、本学の学生、そしてこれから入学する学生にとって、時代にマッチした良い大学になるためには、長所を維持するための変化や進化が必要です。AIの浸透やデジタルを含めた先端テクノロジーの進化に100%対応するだけではなく、それらに対して自分はどう関わるべきなのか考えなくてはならないでしょう。機械がなんでもやってくれる時代だからこそ、人間にしかできないものが何なのかを問い続ける人材を育てたいと考えています。理論的な学びと、作品・課題制作といった実技系の学びをバランス良く繰り返すことによって、頭で考え身体的に確認するという本学ならではのスタイルを確立させていきたいですね。」

サードプレイスとしての大学

加藤「大学は4年という長い間学んで生活する場所ですから、学生にとって良い環境を提供していきたいという思いは常にあります。」

宮津「本学では、各先生方に授業以外の分野でもそれぞれの専門的知見を発揮していただいています。加藤先生にはカフェテリアの改修工事を企画段階から施工監修までご担当いただいていますし、プロダクトの先生方には大学内のサイン計画を手掛けていただいています。」

加藤「そうですね。現在ウッドデッキの一部を残してほぼ完成していますが、居心地の良い、おしゃれなカフェテリアになると思います。」

宮津「キャンパスには美しく手入れの行き届いた天然芝のグラウンドなど緑も多いので、オープンキャンパスに来られる方々が環境の良さに驚かれます。学生には4年間、学びながら楽しく過ごしてほしいので、自然環境の保全とキャンパス環境の更なる整備にはこれからも力を入れていきたいと思います。」

加藤「課題や卒業制作がある美術大学の特性上、学生はキャンパスにいる時間が長くなるため、そういう点からも過ごしやすい環境というのはすごく大事なことだと思います。」

宮津「大学に行ったら必ず誰かがいて、その出会いからアイデアや企画が生まれるというような学生にとって心地の良い居場所、サードプレイスでありたいですね。」

宮津大輔 学長

1963年東京都生まれ
明治学院大学経済学部商学科卒業
京都造形芸術大学大学院芸術研究科修士課程修了

アートと経済、社会との関係性を研究しており、世界的な現代アートのコレクターとしても知られる。

文化庁「現代美術の海外発信に関する検討会議」「羽田オリンピック・パラリンピック レガシー推進タスクフォース」の委員や「Asian Art Award 2017」「ART FUTURE PRIZE・亜州新星奨2019」の審査員などを歴任。

主な著書に『現代アートを買おう』(2010年 集英社)、『アート×テクノロジーの時代』(2017年 光文社)、『現代アート経済学II 脱石油・AI・仮想通貨時代のアート』(2020年 ウェイツ)など。

NHK総合テレビ「クローズアップ現代+」「NHKニュース おはよう日本」に出演するなど、メディアでも活躍している。

加藤良次 学部長

1957年静岡県生まれ
東京藝術大学美術学部工芸科卒業
東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了
東京藝術大学染織研究室研究生修了

ポリエステルクロスのスクリーン捺染技法を研究
安宅賞、卒業制作サロン・ド・プランタン賞、原田賞

イタリア、韓国、東京など国内外で個展24回
日本の現代テキスタイルアート16人展 (2011年 スペイン)
昌原アジアアートフェスティバル招待出品 (2012年 韓国)
寺家回廊、KSCS(国際招待)、KSDT (2015~19国際招待)
清州国際工芸ビエンナーレ招待出品 (2019年 韓国)

2014年から奈良県五條市の赤根(茜染め)プロジェクトに参画し、国内外で講演
JTC日本テキスタイルカウンシル代表理事
JAPANTEX・YOUNGTEXTILE実行委員長