濱田教務部長 × 宮津学長 対談

「本学講義系科目と
遠隔授業の特色について」

各教員の専門領域を活かした講義系「共通科目」の特色

宮津「濱田先生はいつ横浜美術大学に入職されたのですか。」

濱田「本学には2014年に入職いたしました。本学で教壇に立つまでは、ほぼ研究漬けの生活でした。早稲田大学の大学院で東洋美術史を専攻し、同大学で研究助手を務めたのち、日本学術振興会の特別研究員という立場で研究を続けていました。在学中には、台湾への語学留学、蘭州大学への短期留学を経て、北京大学にも留学し、石窟考古を学びました。」

宮津「それで、濱田先生は中国語が堪能なんですね。ところで、本学の特長として、教員それぞれが専門分野で活躍し、その成果を学生の将来を考えながら、授業や様々な学外活動指導に活用している点があげられます。濱田先生はご自身の研究成果を、本学での教育にどのように活かされているのでしょうか?」

濱田「私が担当しているのは、本学で『共通科目』に分類される教養の科目です。日本美術史や東洋美術史などを主に担当しています。美大生としてこれだけは知っておいてほしい、という名品を紹介するのはもちろんなのですが、一番大事にしているのは、日本・東洋の美術そして文化の素晴らしさを、学生一人ひとりに気づいてもらうことです。日本だけで暮らしているとあまり実感が湧かないかもしれませんが、私自身留学した経験や、美術史研究に携わってきて常に思うのは、日本には素晴らしい美術作品が多数遺されており、それらが大切にされながら時代を経て伝えられてきたという歴史です。日本美術史は過去だけのことではなく、これからも続いていきます。学生に対しては『皆さんのアート作品やデザインの制作といったクリエイティブな活動が、まさに日本のこれからの美術史を作っていくのだ』と、最初の授業で伝えています。」

宮津「本学では海外からの留学生も共に学んでいますが、多くは日本で生まれ育った学生です。自らの文化を知り、理解した上で他との違いを認識して共存していくには、どのように生きるべきかを考えなければなりません。古くから日本に存在している考え方、例えば今風にいえばダイバーシティやエコロジーを歴史から学ぶことによって、未来を創り出していくわけですね。」

宮津「さて、大学と小・中・高校での学びにおける最大の違いは、手取り足取り教えるのではなく、教員はきっかけや筋道だけを示し、学生はそこで得たものにより自ら考え、解を見つけるべく自ら学びを発展させていく点にあると思います。これこそが大学教育の本質であると思いますが、濱田先生が特に意識されていることはありますか?」

濱田「そうですね。実際の授業では、歴史的な美術作品の良さだけを伝えるのではなく、例えばそれと関連するような現代美術、時にはアニメやゲームなどの作品を紹介し、それらの表現の共通点や違いを学生たち自身で考えてもらったり、自分の意見を授業内で発言できるような雰囲気づくりも心がけています。また、『自分だったら、どう表現するか?』と問いかけるなど、自らの制作と関連づけながら作品を観ることを大切にしています。自ら考え、答えを導き出していくためのエッセンス、思考の基盤となる様々な要素、そして制作のための引き出しとなる事柄を少しでも多く提供できるよう、日々工夫しています。」

「とても遠隔とは思えない」と「遠隔にしかできないこと」が両立した授業

宮津「今年度から教務部長、教務委員長に就任していただき1ヵ月が過ぎましたが、感触はいかがですか。」

濱田「お話しがあった時には、あまりの重責で、自分には難しいのではないかと正直思いました。
しかし、落ち着いて考えてみると、本学の教職員は、常に学生のために何ができるかを真剣に考え、実践されておられる方ばかりで、その点については全員が同じ方向を目指していることに気がつきました。そうであれば、たとえ教務的な問題が起きたり、難しい課題があったとしても、そして若輩の私がまとめ役になったとしても、建設的な議論をしていけるのではと思い、お引き受けしました。現在はコロナ禍で遠隔授業の対応等に追われていますが、この事態にあって、本学教職員の団結はより強く、そして顕在化したように感じています。」

宮津「今回のコロナウイルス感染症拡大に伴い、授業開始の延期、そして遠隔授業への変更など、 学生および保護者の皆様には多大なご心配をおかけしていますが、この状況を真摯に受け止めた上 で、本学が、他大学と異なる点をより鮮明にしていくべきであろうと考えています。
通信を利用した遠隔授業であっても、必ずアナログ的な方法を併用し、伝達が難しい実技のテクニックなどは映像に収めて見せるなど、常に学生サイドに立って考え、アイディアを絞り出した上で、最適な方法を実践しています。大学の規模が大きすぎると、組織の統率やスピーディーな意志決定とその共有などが難しいと思います。しかし、本学の規模では状況に応じたフレキシブルな運用の妨げになるものは特段存在しないと思っています。
今回は初の全面的な遠隔授業であるため、全てがパーフェクトというわけにはいきませんが、『とても遠隔とは思えない』と、『遠隔にしかできないこと』が両立した画期的な授業が実践できたと自負しています。また、自信を持って言えることは、各教員の熱意、工夫、こだわりが詰まっている点です。早くから先端テクノロジーやそれに付随した考え方を導入し、従来と異なる美大像を模索していたことも、今回の遠隔授業実施に役立っていると思います。学生にとっては、相当密度の濃い授業になっているのではないでしょうか。」

濱田「私も教務部長として実感しましたのは、教員の大変な熱意です。遠隔授業の方針が決定した瞬間、一斉にそれぞれの専門分野で出来ることを模索し、具体的な準備に直ちにとりかかりました。また、各研究室やコースでの連帯感はもちろんのこと、研究室の枠組みを越えた横断的連携が加速したことも肌で感じました。当初は遠隔授業に懐疑的で、対面式授業が必須であると訴えていた先生も、次第に『遠隔でしか学べない授業を、学生たちに是非届けたい』と変化していきました。本学教員の教育に対する強い信念と、学生の立場に立った柔軟な姿勢は、同じ教員として誇らしくさえあります。本学はもともと丁寧な指導を特長としておりますが、その丁寧さは今『学生の遠隔授業における充実した学び』のために向けられており、学生が自ら考え、創造性を発揮するための指導が実践できていると思います。」

宮津「今回の経験を活かして遠くない将来、指導内容に応じて遠隔と対面式を最適な形でミックスした、本学独自の授業が構築できると考えています。
また、どのような状況下でも就職活動は待ってくれません。学生と保護者の皆様に向けた就活についても、その実践的な取り組みをウェブサイトでご紹介していきたいと思います。」

宮津「濱田先生、今後も共通科目の教員として、また教務部長・委員長としての更なるご活躍に期待しています。本日は、ありがとうございました。」

濱田瑞美 教務部長

1972年広島県生まれ
早稲田大学文学研究科博士後期課程芸術学(美術史)専攻 満期退学
博士(文学)

第25回國華奨励賞 受賞

単著に『中国石窟美術の研究』(中央公論美術出版、2012 年)、編著に『アジア仏教美術論集 東アジアⅠ 後漢・三 国・南北朝』(中央公論美術出版、2017年)など
論文に「敦煌莫高窟の白衣仏について」(『佛教藝術』267 号、2003年)、「中国初唐時代の洛陽周辺における優塡王 像について」(『佛教藝術』287号、2006年7月)「敦煌 莫高窟第三二三窟考―図様構成と宗教的機能をめぐって ―」(『國華』第1446号、2016年)、「清水寺式千手観音 図像とその源流」(『古代文学と芸術世界』古代文学と隣 接諸学6、竹林舎、2019年)など

宮津大輔 学長

1963年東京都生まれ
明治学院大学経済学部商学科卒業
京都造形芸術大学大学院芸術研究科修士課程修了

アートと経済、社会との関係性を研究しており、世界的な現代アートのコレクターとしても知られる。

文化庁「現代美術の海外発信に関する検討会議」「羽田オリンピック・パラリンピック レガシー推進タスクフォース」の委員や「Asian Art Award 2017」「ART FUTURE PRIZE・亜州新星奨2019」の審査員などを歴任。

主な著書に『現代アートを買おう』(2010年 集英社)、『アート×テクノロジーの時代』(2017年 光文社)、『現代アート経済学II 脱石油・AI・仮想通貨時代のアート』(2020年 ウェイツ)など。

NHK総合テレビ「クローズアップ現代+」「NHKニュース おはよう日本」に出演するなど、メディアでも活躍している。

横浜美術大学カフェテリア

2020年5月リニューアルオープン