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興味、発見を美術やデザインの学びを通して結びつけ、イメージを形にする

助教

立原 真理子

TACHIHARA Mariko

INTERVIEW 05
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ご自身の創作の経緯 (油画・水彩・刺繍・インスタレーションなど) を教えてください
私は、油絵で美術大学を受験しましたが、学生時代から油絵の制作に加えて、さまざまな道具や素材を使用して平面作品を描いたり、木材や石で立体作品を制作してきました。卒業制作では海岸で収集した海綿を使って大きな立体作品とドローイング i でインスタレーション iiを制作しました。学生の頃から表現方法は変化していますが、「風景の中の境界線を探る」というテーマは継続しています。現在は「蚊帳」や「網戸」など透過性のある支持体iiiに刺繍糸で描き、空間を構成するインスタレーションの作品を展開しています。いわゆる専門的な刺繍の技法ではなく、刺繍糸を使って、絵画表現技法の一つである点描ⅳのように網目を埋めて風景のイメージを重ねています。
これまで一貫していることは、ドローイングをしながら制作のイメージを膨らませ、作品の起点となるそれらのドローイングもインスタレーション作品の一部として空間に配置することです。
また、学生の頃に実験をしてみて、失敗してしまった素材や技法に再び挑戦するということもよくあります。近年、支持体としている網戸もそのような経緯があります。当時を振り返ると、素材の特性や展示方法などについての視点や経験が充分ではなく、狭い範囲で解釈していたのだと気付かされます。
時間をかけて作品のコンセプトや表現方法を探っていくことができるのはファインアートの魅力だと感じています。
インスタレーションを組み立てるときには、絵を描く時のような感覚で空間を構成しています。展示空間を白い紙やキャンバスのように捉え、線や面を配置していきます。
表現したいことをアウトプットする時には自分が軸としている視点や本質的なモノの見方を探っておくことが非常に重要になります。私の基盤となっているモノの見方には学生時代に学んだ絵画の基礎が大きく影響しています。
横浜美術大学の印象を教えてください
助教として着任する前に横浜美術大学で非常勤講師を約 11 年務めていましたが、教職員の学生に対するフォローや対応がとても丁寧で印象的でした。学内での情報共有が早く、さまざまな角度から学生が安心して学べる環境づくりを行っていると感じています。また、少人数制の大学であるため、学生と教員の双方向でコミュニケーションがとりやすいところも魅力です。学生と教員との距離が近いこともあり、学生はのびのびと制作に取り組んでいるように見受けられます。また、学生同士の関係は、そこにお互いの作品があることで言葉+α のコミュニケーションでも繋がっているように感じます。非言語領域やイメージを形にして共有できることは美術大学ならではの関わり方かもしれません。
影響を受けたアーティストを教えてください
影響を受けたアーティストは、カラーフィールド・ペインティングvのアーティストたちです。10 代の頃に千葉県佐倉市にある DIC 川村記念美術館で観たそれらのアーティストの作品は多感な時期に絵画のエネルギーと奥行きを体感させてくれました。マーク・ロスコやバーネット・ニューマンの常設展ⅵは、色彩の美しさや大きさだけではなく、静かさの中に神秘性があり、画面の奥に誘い込まれるような感覚を覚えました。
私はこれらの作品から「1枚の絵画が空間を包み込み、風景そのものになること」「作品と鑑賞者との距離を可変にすること」といった距離感や空間の扱い方を導いてもらいました。
教育の現場で大切にしていきたいことを教えてください
学生一人ひとりの個性や特性を見逃さないように、丁寧に向き合っていきたいです。普段の対話やノートの落書きなどにも想像力が隠れており、そのような何気ない事柄にある発見をお互い大切にしていきたいです。
また、イメージを具体的な形にできたときの学生の高揚感を間近に感じられることは、とても嬉しいことです。そのような創作の喜びを学生自身が自ら次に繋いでいけるよう環境づくりに努めていきたいです。
本学を志望する受験生や高校生、また保護者へのメッセージ
受験生の皆さん
美術大学で学ぶということは、早い段階で進路や興味を一つに絞らないといけないと想像し、不安に思う受験生もいるかもしれません。横浜美術大学は、1年次にさまざまな分野を横断して学ぶことができ、2年次からのコースを慎重に選ぶことができます。
本学には、描くこと、制作することに加えて音楽や漫画、ファッション、歴史、生物など美術の枠を超えた分野にも興味を持つ学生がたくさんいます。
自身を取り巻く環境や興味、発見を美術やデザインの学びを通してしっかりと結びつけ、イメージを形にする方法を自分自身で探っていきましょう。それらの経験は、これからの時代をつくる皆さんの力になることでしょう。その独創性に触れることを楽しみにしています。
保護者、指導者の皆さん
美術大学で学ぶことは素材や道具の扱いなどテクニカルなことだけではありません。座学での学びに加え、作品制作の中で自分自身を客観的に見つめ、完成までのプロセスを考え、それをやり遂げる忍耐力を身につけることは、社会に出る際に必ず役に立ちます。今や活躍の場は美術やデザインに限定されず、さまざまな分野においてもアート思考は注目されています。
学生が創作の喜びと共に創造性を高める環境に身を置き、多くの経験を重ねることを応援していただければ幸いです。

i:ドローイング
一般的には線描と訳されるが、現代ではさまざまな解釈や意味を持つ。作品を制作する予兆やイメージの元となるラフな絵画表現、構図を探るためのスケッチなどもドローイングに含まれる。また、近代ではドローイングを下絵や習作とは捉えず、ドローイングそのものが自立した表現分野となっている。
ii:インスタレーション
展示空間を含めて作品とみなす手法。
iii:支持体
塗膜を支える面を構成するもの。物質的な基盤となるもの。絵画においてはキャンバスや紙、パネルなど。
ⅳ:点描
点あるいはそれに近い短い筆触で描く技法。
v:カラーフィールド・ペインティング
抽象絵画の動向の一つ。色面が大きな割合を占め、平面性を強く押し出す絵画の様式。鑑賞者を包み込むように大きく拡がる色彩が特徴的である。
ⅵ:バーネット・ニューマンの常設
DIC 川村記念美術館が所蔵していたバーネット・ニューマンの作品「アンナの光」は 2013年に売却されたため、現在はみることができません。

作品

  • 立原 真理子 イメージ
    <おく>
    2020 サイズ可変 刺繍糸、蚊帳、透明水彩、紙
    撮影: 中川達彦
  • 立原 真理子 イメージ
    <おく>部分
    2020 刺繍糸、蚊帳
    撮影: 中川達彦
  • 立原 真理子 イメージ
    <いつく島> 83×134×10.2cm 
    <香山の道すがら> サイズ可変
    <御嶽のある風景> 38.2×81.7×2cm
    2019-2020 刺繍糸、網戸
    撮影: 上野則宏
  • 立原 真理子 イメージ
    <奥山>
    2020 41.0×31.8cm 透明水彩、紙
  • 立原 真理子 イメージ
    <庭と川>
    2014 サイズ可変 刺繍糸、網戸、透明水彩、紙
    撮影: 中野萌子
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