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各自のセンスに各自が気付くようなカリキュラム

准教授/修士 (美術)

辻 康介

TSUJI Kosuke

INTERVIEW 01
新カリキュラムに至った経緯と目標とするものは何ですか?
「新しいもの」は、日々世に生み出され進化しています。それらを分析してルーツを紐解いてみると、今まで関係していなかった複数領域のアイデアや技術が融合していることに気付きます。今後の未来を作っていくには、今まで離れていた「アレ」や「コレ」に気付き、それらを結びつける能力が必要になると考えています。新しいカリキュラムは、美術・デザインにおいて区切られてきた表現を横断的に経験しながら「アレ」や「コレ」に気付く仕掛けになっています。共通基礎を学修する流れの中でクリエイティブな世界を俯瞰し、自分の目指す方向を見つけることができます。
本学基礎教育や複合教育の意味や可能性について教えてください
絵画、彫刻のアート的な表現やデザイン表現、立体的な造形を横断的に体験することで、2年次以降の3年間で何を学ぶのか実感を伴って決めることができます。しかしそれは表面上のことだと捉えており、学生各自が目指す方向だけを見
て進むのではなく、その周辺にある他ジャンルの表現も取り入れながら柔軟に進んでいく「意識」や「志」の種が各学生の中に植えられると考えています。これは成長すると「表現者としてのマインド」となる種です。その種の萌芽と同時に2年次の専門科目がスタートします。
先の話になりますが、大学卒業後はコースや科のような仕切りはありません。美大出身者としてクリエイティブに生きて行くには「何かと何かを融合して、新しい何かを生み出す」マインドが大いに役立つと考えています。2〜3年次には自分を知り、育て、コントロールすることを学び、卒業後は各自の能力を発揮するまで、クリエイティブ人生を貫いてください。
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基礎教育を行う上での学生に対するスタンスを教えてください
私の教育の根底には「やってほしかったことをする」という想いがあります。美術の世界に飛び込んだ時、まず壁となったのは専門用語や独特のことばでした。当時、ピーマンをモチーフにした平面構成の講評会を見学した際、同年代の高校生が「ピーマンのリズムで画面に動きを出したい」と講師に言っていたのを聞き、ピーマンのリズムとは?動きって何?と理解できずに萎縮したことを覚えています。もちろん今では何を言っているのか分かります。その経験を元に、専門用語に隠された意味や目的を、翻訳するつもりで学生たちに伝える心がけが私の教育の原点です。
学生たちとは、「私も学生から得られる学びがある」という意識で交流しています。若者と交流しその気質や特性を知ることで、変化する時代を肌で感じることができます。新学期は学生間でも作品や会話を通して、お互いに興味を持ったり尊敬する空気感があります。学生と教員それぞれが、互いに得られるものがあり、互いが認め合う中での美術教育は、新たな文化を生み出す場となるでしょう。
また、学生と対話の場を作ることも意識しています。学生との相互交流感や一体感、安心感を構築するため冗談も言いますし雑談もします。例えば、学生に掛ける言葉の一つに「失敗を恐れずに」があります。失敗しても許される認識が持てていない場合、その学生はチャレンジをしなくなるでしょう。平等を心がけ、私の失敗談とそこから学んだことを話し「学生も教員も、だいたい同じ人間」と共感する頃には信頼感と安心感が芽生え、能動的にチャレンジする空気感も生まれてきます。
場が整えば、内容にも力が入ります。教育を行う私自身が楽しくなければ、学生にも伝わっていきます。「明日は何が起こるんだろう!何を伝えてくれるんだろう!」と期待されるような日々を送るため、日々工夫して授業を組み立てています。
ご自身の経験と美術・デザインの基礎の大切さについて
大学を卒業後、社会人1年目初の仕事は「国際宇宙ステーション内での生活のデザイン」という研究、翌年は「火力発電所の敷地内の公園」をデザインしました。また、「歯科矯正に使うチタンに形状記憶させる機械」のデザインにも携わったこともあり、さまざまな研究や実践的な課題に取り組んできました。最近では横浜美術大学の敷地内にある構内の案内板を検討する「サイン計画」で日本デザイン学会から表彰されました。学生時代にそれらのデザインプロセスを教わったわけではありません。観察して発見すること、きれいな線を描くこと、少し先を想像することなど基礎教育に含まれるスキルを応用し、これまで経験していなかった仕事をやり遂げることができました。
経験したことのない仕事は、自信がないからやめておこうかな…と断る場合もあるとは思いますが、多ジャンルの基礎を修得することは、多ジャンルに対応できるということ。断るのは勿体無いです。「美大出身ならばこの仕事、できるでしょう?」と言われることは多々あります。それは「勉強したことがないからできない」ではなく、実はしっかり学んだ基礎教育の中にあったりするのです。
本学を志望する学生や保護者指導者へのメッセージ
私のところに相談に来る学生から分かる、美大生の悩みベスト3は以下のようになります。
■「私にはセンスがないのでは」
意外に思われるかもしれませんが、入学前まではあまり気にしていなかったことも美大入学後は周囲の状況もあって浮き彫りになってくるようです。「センス」という言葉の私なりの日本語訳は「好み」です。自分の好きなもの、こと、色、音、形、匂い…を知って自覚して行くと、表現に現れてきます。センスがないと感じるのは、自分の「好き」を自覚していないのが原因です。
というように、目に見えない感覚的な要素を心配する方が少なくありません。「センスがない」は、先天的な原因でなく、これからの意識と気付きで十分に修得できる能力です。いや、修得というより「もともと誰しもが持っているものに気付く」感じです。
各自のセンスに各自が気付くようなカリキュラムを組み、各自のセンスが開花するように誘導して行きます。
そのほか、
■「絵が下手なんです」
■「作品のアイデアが出ません」
という相談も多いです。その回答例は、オープンキャンパス等のイベントで直接お伝えしましょう。

作品

  • 辻 康介 イメージ
    新磯子火力発電所 敷地内に「発電の仕組みが分かる公園」デザイン計画
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    奈良県五條市 登録有形文化財の藤岡家住宅にて展示 「かわることのとらえかた」
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    黒板アートプロデュース・学生に技術指導
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    横浜美大 キャンパスサインデザイン (案内マップ)
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    横浜美大 キャンパスサインデザイン (方向誘導サイン)
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    1年生必修授業【造形】の風景
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    1年生必修授業【造形】の風景
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    1年生必修授業【造形】の風景
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    1年生必修授業【造形】の風景
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    1年生必修授業【造形】の風景
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